ビンクリスチンが効いていない。
とてもまずいことになった。
ビンクリスチンは、CHOP療法の1週目と3週目に投与する薬だ。 それが効いていないとなると、このままCHOP療法を続けていくことが難しくなってしまう。
次の診察日に先生へ相談すると、「レスキュー療法へ移るかどうか」を提案された。
今までは複数の抗がん剤を組み合わせて治療していたが、レスキュー療法では基本的に単剤を使い、その薬の効果を見ながら治療を続けていく。
その薬の効きが悪くなれば、また別の薬へ。
そうやって、使える薬を繋いでいく。
そして先生からは、単剤で寛解できる確率はかなり低いとも言われた。
レスキュー療法に移行すれば、CHOP療法はいったん終わりにしなければならない。
ただ、今回投与する予定だったドキソルビシンは、前回よく効いていた。
「とりあえず今回はドキソルビシンを打って、様子を見てみましょう」
そういうことになった。
投与後、症状はいったんおさまった。
やっぱりドキソルビシンは効いている。
安堵したのも束の間。
投与から5日後、チビに再び症状が出た。
前回は2週間ほど効いていたのに、今回はかなり早い段階で症状を抑えられなくなっている。
慌ててチビを病院へ連れて行った。
チビの状態を確認したあと、先生は眉根を寄せ、少し言いにくそうに告げた。
「……抗がん剤に耐性ができているのかもしれません」
頭をハンマーで殴られたような衝撃だった。
抗がん剤には、使っているうちに耐性ができることがある。
その話はネットで見かけて知っていた。
けれど、まさかこんなに早い段階で起こるとは思ってもいなかった。
CHOP療法で使っている4種類の抗がん剤のうち、ビンクリスチンは効いていない。
そして、頼りにしていたドキソルビシンまで、効果が続く期間が短くなってしまった。
これでは、今までと同じCHOP療法を続けていくことは難しい。
せっかく2か月、チビと一緒に頑張って治療を続けてきたのに。
それでも、レスキュー療法へ移行する以外に、チビの状態を良くできる可能性のある方法はなかった。
「……レスキューに移ってください」
そう言うしかなかった。
先生が薬を取りに、いったん診察室を出た。
一人になった途端、いろいろな考えが頭の中をぐるぐると回り始めた。
CHOP療法は効く可能性が高いと聞いていたのに。
どうしてチビには効かなかったんだろう。
もっと健康にいいご飯をあげていれば良かったのか。
免疫機能を高めるようなサプリを、小さい頃から飲ませていれば何か違っていたのか。
もっとストレスを感じないように配慮していれば。
私の飼い方に、何か悪いところがあったんじゃないか。
先生が戻ってくるまで、私はそんなことばかり考えていた。
