投薬バトル、開幕。
まずはいつものように、錠剤カッターでディアバスターとフラジールを8等分にし、ちゅーるに混ぜ込んだ。
一口、二口。
気付く様子もなく、ぺろりと平らげた。
1日目の朝は、飼い主の勝利。
この調子なら楽に終わるだろうと、私は余裕をかましていた。
しかし、我が家で一番賢いと言われるチビ。
さすがに一筋縄ではいかなかった。
その日の晩。朝と同じように薬をちゅーるに混ぜ、器をチビの前に置いた。
すると、フンフンと匂いを嗅いだあと、こちらを見上げてきた。
その表情は、なんとも胡乱げだ。
――お前、オヤツに何か混ぜてるだろう。
そう言わんばかりの顔だった。
バレたか?
気付かないふりをして、 「食べないの?ほれほれ美味しいよー」 と指にちゅーるを付け、口元へ持っていった。
チビは指先の匂いを嗅ぐと、プイッと顔を背けた。
ダメだ。 完全にバレている。
さすが天才猫ちゃん。
頭を抱える飼い主をよそに「もう興味ありません」とばかりに別室へ向かおうとするチビ。
私は慌てて、器のちゅーるに鰹節を振りかけた。
その匂いに釣られ、チビが振り返る。
「どうぞ」そう言って、再び器を目の前に置いた。
チビは鼻を近付け、フンフンと慎重に吟味している。
――頼む、食べてくれ。
心の中で祈った。
少し間を置いて、チビが口を付けた。
成功した――と思ったのも束の間。
半分ほど残されてしまった。
仕方ない。 少しでも薬を飲んでくれただけでもありがたい。
残りはまた明日頑張ろう。
他の猫たちが「ちょーだい!」と騒いでいたが、薬入りをあげるわけにはいかない。
勿体ないと思いながら、残ったちゅーるを捨てた。
二日目の朝。作戦を変えることにした。
昨日は一度に混ぜる薬の量が多かった。
だから気付かれたのかもしれない。
ならばちゅーる1本に対し、混ぜる薬の量を半分にした。
匂いを誤魔化すために鰹節も添えて。
これを2回に分けて食べてもらう作戦だ。
1回目は、うまくいった。
だが2回目。
「今は食べる気分じゃない」そう言わんばかりに、見向きもされなかった。
チビはもともと食の細い子だ。加えて鼻が詰まって食欲も落ちている。
またしても失敗だった。
隠そうとするからいけないのでは?
いっそ堂々とあげればいいのかもしれない。
そう思い、その日の夜はカリカリの中に薬を忍ばせてみた。
結果は、火を見るより明らかだった。
3日目。
薬が少しは効いているのか、下痢はマシになっていた。
けれど、まだ治りきってはいない。
ネットや動画で、薬を直接口に入れて飲ませる方法を調べ、実践してみた。
けれど、どうにもうまくいかない。
洗濯ネットやタオルで固定しようとするが、スルリとうまく逃げ出してしまう。
洗濯ネットやタオルで固定しようとするが、スルリとうまく逃げ出してしまう。
運よく固定できても、うまく口を開けることが出来ない。
四苦八苦しながら何度か繰り返すうちに、チビは私を見る目に怯えを滲ませるようになった。
少し近付いただけで体を竦ませ、手の届かないクローゼットの奥へ逃げていく。
ーー心が折れそうだった。
チビのためにしていることが、チビのストレスになっている。
君のためなんだ。飲めば体が楽になるんだよ。
そう言いたいのに、どうしても伝わらない。
こんな時だけは本当に思う。
猫の言葉が喋れたらいいのに。
物陰の奥からジッとこちらの様子を伺う視線に、途方に暮れた。