レスキュー療法に移ることを決めたものの、どんよりとした気持ちが背中にのしかかっていた。
これから、いったいどうなるのだろう。
不安で不安で仕方なかった。胃がキリキリとした。
今回使う薬は、ロイナーゼ。
アレルギー反応が出ることがあるため、抗ヒスタミン剤も一緒に投与された。
その日の夕方には鼻詰まりが改善し、食欲も戻った。その代わり、下痢の症状が出た。
副作用による胃腸障害だった。
次の日になっても下痢は治まらなかった。
2日後、ようやく下痢は治まったが、再び鼻詰まりが始まった。
それに伴って食欲も落ち、カリカリを食べなくなってしまった。
食べたそうに、ご飯の入った器へ顔を近づける。
けれど、匂いを嗅いだあと、プイッと顔を背けてしまう。
ちゅーるやとろリッチなら食べてくれたが、それさえも食べにくそうだった。
2、3口食べてはむせる。その繰り返しだった。
鼻が詰まって寝苦しいのだろう。
横になって眠ることはあまりなく、香箱座りのまま過ごしていることが多かった。
体重も、先週は3.60kgあったのに、3.42kgまで減ってしまった。
…ロイナーゼも駄目だった。
落ち込みながら、手帳にその日のチビの様子を書いていく。
そこで、ふと気づいた。
手を止め、これまでの記録をめくって確認する。
――あった。
わずかに、光が差した気がした。
1週間後の診察日。
先生に、ロイナーゼが効かなかったことを伝えた。
先生は眉間にしわを寄せ、「次の手段は……」と言いかけた。
私は、その言葉に被せるように言った。
「シクロフォスファミドを打ったときは、鼻のズーズー音もクシャミも治まっていました。これを試すことはできませんか?」
CHOP療法の2週目に使われていた、シクロフォスファミド。
これまでに2回投与しているが、どちらも反応は良かった。
もしかしたら。そんな期待を込めて、先生に提案した。
先生はカルテを確認してから、「試してみましょう」と言った。
先生からOKが出た事にホッとした。
ずっと記録を残してきて良かった。
抗ガン剤と点滴を終えた後、先生から告げられた。
「次に使うときは、できれば2〜3週間は間を空けたほうがいいです」
CHOP療法では毎週のように抗がん剤を使っていたため、私はシクロフォスファミドも毎週使えるのだと思っていた。
しかし、投与間隔が短すぎると副作用が強く出てしまうらしい。
1週間毎に打てばガン細胞を抑え込めるのでは、と考えていた。
もし2、3週間の間にガン細胞が力をつけてドキソルビシンのように耐性ができてしまったら。
それが怖かった。
家に着いてから、鼻をズーズーと鳴らすチビの顔を両手でそっと包んだ。
「悪性リンパ腫、チビから出ていけ。遠くへ飛んでいけ。海の真ん中に落ちて戻ってくるな」
そう願いを込めた。
飼い主の私にできることなんて、それくらいしかなかった。

