「チビちゃんは悪性リンパ腫です」
最も聞きたくなかった病名に手足の先が冷たくなって、指先が震える。
先生、嘘だと言ってください。
そう期待したが、先生は少し言いにくそうに口を開いた。
「猫のガンは治ることがありません。この子の場合、余命は2〜3年ほどになるかと思います」
一瞬、意味が分からなかった。
その言葉が頭の中を何度も何度も回り、ようやく意味を理解した瞬間、全身から血の気が引いた。
チビが、死ぬ。死んでしまう。
受け止められなかった。
耳を塞いで叫びたかった。
先生は色々説明してくれるが、なかなか頭に入ってこない。
それでも必死に聞き取れたのは、ガンにはB細胞とT細胞があり、チビは抗がん剤の反応が良いB細胞型だということだった。
B?T?
なんだ、それは。
反応が良いって喜んでいいのか?
分からないことだらけだ。
混乱する私に先生から提案される。
- 抗がん剤で治療する
- 抗がん剤を使わず、ステロイドを使う緩和治療をする
- 治療を行わず、自然に任せる
「どうされますか?」の言葉に被せるように言った。
「抗がん剤でお願いします」
先生は一つ頷いて、これからの流れを説明してくれた。
抗がん剤は週に一回を4週間続け、1週間休薬。その後も間隔を空けながら続け、およそ半年間通院する治療だった。
とても大変ですけど、頑張りましょうと言われた。
「では、今から治療を始めましょう」
先生の言葉に驚いた。
次の診察の時からだと勝手に思っていた。
そんな、急に。まだ心の整理もついていないのに。
呆然とする私をよそに先生と看護師さんはテキパキと準備を進めていく。
抗がん剤を打つ前に、まず血液検査で体の状態を確認する必要があるという。
診察台の上に横向きに寝かされ、前足に注射針が刺さった瞬間、チビは激しく暴れた。
診察台と先生の手に、血が飛び散った。
一悶着あったものの、幸い血液検査の結果に問題はなかった。
「では抗がん剤を打ちますね。飼い主さん、上のほうを押さえてください」
私と看護士さんの二人がかりでチビを診察台の上に押さえつけたが、案の定、チビは暴れた。
「怖いよ」「痛いよ」と目で訴えてきて、思わず手を緩めそうになった。
ごめん。抗がん剤を打たないとよくならないんだよ。本当にごめん。
なんとか打ち終わり、フラフラと診察室を後にした。
色んな事が一気に起こって、頭がボヤボヤした。
先生に何も質問できなかった。
抗がん剤+血液検査+諸々で費用は16240円。
何も考えず。精算機に万札3枚押し込んだ。
多く入れてしまったことに後で気付いた。
帰りの車内。
母も私も無口だった。
キャリーの中でチビは注射を打たれた前足をしきりに舐めていた。
その小さな背中が、可愛くて、悲しくて。キャリーを抱きしめた。
チビの他に3匹の猫を飼っている。
チビは末っ子だ。
だから、1番上の子を見送って、次は2番目の子…と年齢順に見送るつもりだった。
まさか末っ子のチビを最初に見送ることになるかもなんて、欠片も想像もしていなかった。
なぜこの子なんだ。
まだたった3歳なのに。
ガンの可能性は低いんじゃなかったのか!
どうして。どうして。どうして!
悲しかった。悔しかった。ただ、怖かった。
家に着くまでの40分。歯を食いしばってキャリーを抱きしめ続けた。
